成瀬は都を駆け抜ける
本書を読む前に
本書は、成瀬あかりが京都大学に進学してからの日々を描いた物語であり、『天下を取りに行く』『信じたみちを行く』に続く完結編である。成瀬は迷いながらも、自分が信じた道を疑わず、京都という舞台を全力で生き抜いてきた。その姿には、彼女なりの人生観が確かに刻まれている。そして本作では、これまで成瀬と出会い、支え合ってきた人々との人間ドラマが鮮やかに交差する。挑戦すること、流されないこと、楽しみ尽くすこと。そのすべてがここにある。これは、令和を生きる私たちに贈る、新しい人生のバイブルである。
第1章:京都大学一回生、迷いと決意の春
失恋から始まる一歩
京都大学に入学した一年生の坪井さくらは、想いを寄せる早田くんと同じ進学先だと信じていた。しかし彼は進路を変え、東京大学へ。失意のさくらは、彼のいない京都に意味を見いだせず、投げやりな気持ちで過ごしていた。そんな折、意志が強くぶれない成瀬あかりと出会い、その姿に次第に惹かれていく。誰かに依存する生き方をやめたいと打ち明けたさくらは、成瀬に料理を勧められ、彼女の定番であるハムエッグ丼を作ってみる。その美味しさに心を動かされ、さくらは夢中になれる新しい趣味と前向きな一歩を見つける。
達磨研究会と京都を極める道
京都大学一回生の梅谷は、サークル勧誘の中でこたつに入り達磨を並べる奇妙な集団「達磨研究会」と出会う。彼らは森見登美彦『夜は短し歩けよ乙女』に登場する黒髪の乙女を探しており、梅谷も巻き込まれる。実は梅谷の父も森見作品の熱狂的ファンで、京大卒業後も京都に住み続けていた。活動実態は部長宅で桃鉄をする程度だったが、梅谷は黒髪の乙女探しを引き受け、成瀬あかりと出会う。成瀬は「京都を極める」ことに挑み、その意味より過程を楽しむ大切さを示す。ガイドブックの付箋を巡る旅が始まる。
第1章を読んで感じたこと

成瀬って、京大に進学しても全然変わらないよね。

うん。いつも通り自由で、迷いがない。その姿にさくらも影響を受けたんだと思う。

早田くんのことも、“そういう役割だった”って受け止めていたのが印象的だった。

依存していた自分に気づいて、自立の一歩を踏み出したんだよね。

達磨研究会でも同じだ。みんなが“京都を極める”定義に悩む中、成瀬だけは違った。

方法や答えより、目指す過程に意味があるって言ってた。

少しずつだけど、成瀬が他人の感情に寄り添い始めているのも伝わってきた。

新入生が迷いの中で動き出す春そのものだったね。
第2章:成瀬あかりに出会ってしまった人たち
炎上から始まる、夏の簿記挑戦
日商簿記一級を目指す大学生YouTuber・ぼきののかこと田中ののかは、合格祈願の生配信で訪れた北野天満宮で、びわ湖大津観光をPRする成瀬あかりと出会う。視聴者の注目を集める成瀬に嫉妬する中、配信中に簿記二級合格が嘘だったと暴露され、炎上してしまう。動揺しつつも高揚するののかを見た成瀬は、かつて世話になった城山に炎上対応を依頼する。謝罪動画を撮る中で、成瀬は「この夏を簿記に捧げる」と宣言。成瀬たちとののかは共に簿記二級に挑み、全員合格を果たすが、成瀬は満点を逃したと悔しがり、称賛の声が集まる。
親愛なるあなたへ
西浦は百人一首の全国大会で成瀬あかりと出会い、文通を続けている。京都に住む成瀬は日々予定に追われ、多忙な毎日を送っていた。気持ちが高ぶった西浦は思わず「親愛なるあなたへ」と書き出した手紙を送ってしまい、恥ずかしさから返却を求める。その流れで成瀬の一日に密着することになり、ぼきののかと献血に行き、京都制覇の一環でラーメン屋を巡り、麻雀大会で優勝、達磨研究会の忘年会にも参加する姿を見る。成瀬の隙間のない日常を知った西浦は、自分が入り込む余地のなさを悟る。それでも覚えたての手話で、成瀬への想いを伝えるのだった。
第2章を読んで感じたこと

登場人物が一気に広がったね。

うん。前に出てきたキャラと新しいキャラが自然に交わっていて、懐かしさもあった。

ぼきののかも西浦も、ちゃんと自分の気持ちで動いていた。

成瀬の物語だけど、成瀬一人の話じゃない感じがいいよね。

誰かが無理して頑張ってる感じがしないのも印象的だった。

我慢とか犠牲じゃなくて、みんな自分の選択で動いてる。

だから読んでいて苦しくならない。

成瀬に出会ってしまった人たちの人生が、少しずつ前に進んでいるのが分かる。
第3章:母の言葉、娘の答え
そういう子なので
成瀬あかりは地方テレビのインタビューを受け、母も取材に応じた。成瀬は赤ん坊の頃からハイハイレースで優勝し、コンクールで表彰されるなど早くから特別な片鱗を見せていた。一方で小学校では協調性がないと指摘され、教師から注意を受けることも多かった。母は「そういう子なので」と理解しつつも、もっと強く守ってあげればよかったと静かに後悔を語る。育て方に特別な方針はなかったという母の言葉に、取材側は「だから成瀬さんは自由なんですね」と評した。
そのままでいいと知る
成瀬自身は、京都大学進学や琵琶湖大津観光大使への立候補も、明確な理由より自然な流れで選んできたと語る。放送を皆で見守る中、母の「そういう子なので」という言葉が紹介され、成瀬はそのままでいいのだと自信を持てたと伝える。さらに、亡くなった祖母が番組のファンで出演を喜んでいると母に伝えられると、成瀬は「だといいのだが」穏やかに受け止める。かつてより言葉を選ぶ姿に、母は娘の確かな成長を感じ取った。
第3章を読んで感じたこと

成瀬って、最初からずっと成瀬のままだと思ってた。

表面上は見えないだけで、ちゃんと成長してるんだよね。

母の『そういう子なので』って言葉が、否定じゃなくて肯定だったのが印象的だったなぁ。

そのままでいいって、背中をそっと押してくれた気がしたよね。

成瀬もそれを聞いて自由に挑戦する事に自信が持てたんだね。

テレビをきっかけに得た、2人の答え合わせが胸にきた。

成長した成瀬を、そっと母だけが感じ取れる温かい章だったね。
第4章:その言葉は、琵琶湖へ続く
託された代役
成瀬あかりの入院を知り、幼馴染の島崎は病室を訪れる。かつて漫才コンビ「ゼゼカラ」としてM-1に挑んだ二人だったが、成瀬は琵琶湖大津観光大使の代役を島崎に託す。重責に尻込みする島崎は一度断るものの、成瀬の強い思いに押され引き受けることに。地元へ戻ると、以前成瀬を探した仲間たちと再会し、自分の知らない成瀬の話を聞くたび、胸に小さな寂しさが広がっていく。皆が成瀬を迎えに行こうと話す中、島崎は代理であることを言い出せず、用事を理由に断るのだった。
琵琶湖はみんなのもの
観光大使の仕事では、パートナーの篠原に助けられながら島崎は務めを果たしていた。しかし疎水PRに対し、「滋賀が否定していた事業を今さら利用するのは虫がいい」とクレームが入る。島崎はとっさに「琵琶湖はみんなのものです」と答える。その瞬間、退院した成瀬が現れ、同じ言葉を叫ぶ。機転を利かせた篠原の判断で二人は船に乗り、共に琵琶湖大津観光大使としてPRを行う。辿り着いた先には、成瀬を支えてきた人々が集まり、温かく二人を迎えていた。
第4章を読んで感じたこと

第4章は、島崎の章でもあったね。

うん。成瀬がいない間を任される重さがずっと伝わってきた。

『成瀬の代役は島崎しかいない』って、母からも本人からも言われたら断れないよね。

地元では、知らなかった成瀬の一面を聞いて、寂しくなる感じもリアルだった。

『琵琶湖はみんなのもの』って言葉を、島崎が口にした瞬間、ホッとしたよね。

そこに成瀬が現れるなんて反則級だよね。

託された言葉が戻ってきて、最後の仕事をいっしょにするところ、胸が熱くなるね。

成瀬と島崎、そして支えてきた人たちの思いが琵琶湖へ流れ込んで、みんなが前に進んでいる。それを象徴とした章だった。
学びと成長
成瀬が残したもの
本作を通して描かれているのは、成瀬あかりという一人の人物の成功譚ではなく、彼女と出会った人々がそれぞれの場所で少しずつ前に進んでいく姿だった。成瀬は一貫して自分の軸を失わないが、その在り方が周囲に影響を与える。さくらには自立のきっかけを、梅谷には過程を楽しむ視点を、ののかには誠実に向き合う覚悟を、西浦には距離の中でも想いを伝える勇気を与えている。誰かを引っ張るのではなく、自然体のまま関わることで、人の背中を押していく成瀬の姿が印象的だった。
受け継がれていく成長
母との章では「そのままでいい」という言葉が、成瀬自身の成長を静かに肯定していた。変わらないように見える成瀬が、実は言葉を選び、受け止め方を深めていることに気づかされる。第4章では島崎が成瀬の言葉を受け継ぎ、自分の足で立つ姿が描かれ、成瀬の生き方が確かに人に伝播していることが示された。学びとは押し付けられるものではなく、成長とは誰かと関わる中で自然に生まれるものだと、この物語は優しく教えてくれる。
最後に
読み終えたあと、胸に残るのは大きな達成感ではなく、静かで澄んだ余韻だった。成瀬あかりは最後まで成瀬のままで、何かを声高に語ることはない。それでも彼女の選択や言葉は、確かに人の人生に波紋を広げていく。迷い、立ち止まり、それでも前に進もうとする人々の姿が、京都や琵琶湖の風景と重なり、心にやさしく染み込んでくる。この物語は、読み終えた瞬間に終わるのではなく、明日をどう生きるかをそっと問いかけ続ける。
その足跡は、京都から琵琶湖へ、そして未来へ続く。
成瀬が示した道を、どう歩くかは自分次第だ。
成瀬は最後まで、答えを語らなかった。
それでもなぜ、私たちは彼女の生き方を考え続けてしまうのか。
成瀬あかりという生き方をテーマに、もう少し踏み込んだ考察をnoteに書いてます。


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