恋とか愛とかやさしさなら
序章:幸せは一夜のうちに消える?
プロポーズの夜に揺れる未来
新夏は30歳のカメラマン助手。友人の結婚式で撮影を終えた帰り道、恋人の啓久から突然のプロポーズを受ける。長い関係の中でようやく訪れた幸福な瞬間に、新夏は胸を満たされる。仕事の充実感と人生の転機が一気に押し寄せ、未来への期待が大きく膨らむ。自分たちの関係がようやく形になると感じ、穏やかで温かな夜を過ごす。しかし、その幸せが永遠に続くと信じて疑わなかった彼女の心は、翌日に訪れる出来事によって大きく揺さぶられることになる。
崩れた朝と交錯する視点
翌朝、新夏のもとに啓久の母から突然電話が入り、「啓久が盗撮で捕まった」と告げられる。信じがたい知らせに新夏は動揺し、母は息子の行為を受け止められず、啓久本人は状況を語ろうとしない。それぞれの視点が交差し、真実に対する捉え方の違いが浮き彫りになる。幸せの余韻から一転して、愛情・信頼・羞恥・責任が混ざり合う混乱の中で、新夏は自分が何を信じるべきか、どこへ向かうべきかを問われていく。
序章を読んで感じたこと

幸せって本当に脆いものだと改めて思ったよ。一晩で景色が変わる、その揺れを感じる瞬間だったなぁ。

まさにその“落差”に胸をつかまれちゃった。新夏の戸惑いも、母親の動揺も、全部リアルで、自分ならどうするだろうって考えさせられるね。

そうなんだよね。出来事の裏にある気持ちの重なりが丁寧に描かれていくよ。
第1章:愛と迷いの間で──信じる勇気とは
信じられない現実と揺れる判断
新夏は啓久が盗撮をしたと聞かされ、最初は現実を受け入れられなかった。「啓久がそんなことをするはずがない」と信じたい気持ちと、母からの復縁の勧め、姉からの別れの忠告という相反する声に挟まれ、何を信じるべきか分からなくなる。自分は悪くないのに、どう行動すればいいのか悩み、周囲からの圧力や期待に心を揺さぶられる。選択の重さと苦しさが新夏を押しつぶすようだった。
向き合う勇気と再び揺れる心
それでも、新夏は啓久の行為の理由を理解したいと思い、極端な方法に出る。電車内のようなラブホテルで啓久に女子高生の格好をさせ、写真を撮るが、うまくいかない。それでも恥ずかしさを押して応える啓久に触れ、再び心を揺さぶられる。悪いのは啓久だが、彼女は正解のない関係に向き合う中で、葛藤と傷つきやすさの中に、理解しようとする強さを見せることになる。
第1章を読んで感じたこと

新夏って、本当に“悪くない側”なのに、誰よりも悩まされてしまうんだよね。周りの声にも振り回されて、どこに立てばいいのか分からなくなる感じ…すごく切なかったなぁ。

正解なんてないからこそ苦しいよね。彼を信じたい気持ちと、現実を突きつけられる恐怖が同時に押し寄せてくる感じ、読んでて胸がぎゅっとしたよ。

それでも理解しようとして、自分なりに向き合おうとする姿が新夏らしいよね。極端な方法でも、本気で知ろうとしたんだと思う。

うん、その“向き合う勇気”がすごく人間らしくて、惹かれる部分でもあった。
第2章:母の痛みが映す家族の現実
向けられた母の厳しい言葉とその背景
啓久の家族は、彼の罪に対する考えが真逆だった。母は息子の幸せを願い復縁を望むが、娘を持つ姉は「盗撮は許せない」と新夏に別れを勧める。板挟みの新夏に対し、母は厳しい言葉を投げかける。「被害者に頭を下げるわけでも弁護士と動くわけでもなく、ただ悩むだけ。私の苦労が分かる?」と。そして「息子を立てれば娘に嫌われる。あなたはまだ何も失っていない」と続け、新夏の迷いが“他人事”に見える苦しさを吐露する。
母の過去が照らす“家族としての責任”
母がそう感じてしまう背景には、自身の痛ましい過去があった。夫の不倫に苦しめられるたび、形ある果物を煮詰めてジャムを作ることで心を落ち着かせてきたという。裏切られる痛みを深く知る母にとって、息子の罪から逃げることはできない。家族だからこそ背負う責任と恥、そして娘と息子の間で揺れる複雑な立場。新夏は婚約者という“外側”の位置にいられるが、母にはその逃げ道がない。その視点が、彼女の言葉の重さを支えていた。
第2章を読んで感じたこと

お母さんの“痛みの深さ”が一気に見えて胸が重くなったよ。新夏への厳しさも、ただの八つ当たりじゃなくて、家族として背負ってきたものの重さなんだよね。

ほんとにそう感じた。母として、娘として、妻として…いろんな立場で傷ついてきたからこそ、息子の罪にも自分が向き合わなきゃって覚悟が伝わってきたよ。

新夏は婚約者だから責任の外にいられる。でも母には逃げ場がなくて、その孤独が言葉のきつさになってるんだよね。

うん。お母さんの視点が入ったことで、単純な“善悪”じゃ片づけられない家族の重さがより立体的に見えた。
第3章:衝動が人生を変える──啓久の葛藤
説明できない衝動と迫られる自覚
啓久は新夏に「なぜやったのか」と問われても答えられなかった。飲み過ぎた帰り道、目の前を歩く女子高生に「パンツが見えたら」と軽い気持ちで思った瞬間、無意識のように写真を撮ってしまったのだ。注意され、逮捕されても自分の行為を深く理解できず、罪の実感も薄いまま。ただ状況だけが進んでいった。新夏から性加害者の会への参加を勧められても、自分が「他の性加害者」と同列に扱われることへの反発ばかりが先に立ち、現実を受け入れることができなかった。
周囲の視線が突きつける“犯罪者”の現実
しかし啓久は、世間が理由の違いを問わず“性加害者”として一括りに見るという厳しい現実に直面する。実際に会を主催する瀬名さんや、同僚のシングルマザーと関わる中で、自分の行為が他人に与える恐怖や不安の大きさを知ることになる。今や誰でも簡単に写真が撮れる時代だからこそ、魔が差す一瞬が大きな犯罪へとつながる。撮影禁止の場所が増えていることもその象徴だ。周囲の視線と環境の変化を通して、啓久はようやく“向き合うべき重さ”を自覚していく。
第3章を読んで感じたこと

罪の自覚って簡単じゃないんだなと改めて思ったよ。自分では軽い衝動だと思っていても、社会から見れば立派な犯罪で、周囲の視線が追い詰める現実があるんだよね。

うん、最初は本人も理解できていないから、説明できないのが余計に怖い。軽い気持ちが大きな結果につながるって、読んでて背筋が寒くなったよ。

でも、瀬名さんや同僚との関わりで少しずつ現実を理解していく過程が描かれているのがポイントかな。自覚と向き合うって、時間がかかるものなんだなって感じた。

確かに。誰でもスマホで簡単に撮れる今、魔が差す一瞬が人生を変えるかもしれないという警鐘にもなっていたね。
第4章:傷ついた心に触れる瞬間
莉子の傷と日常の重み
莉子は啓久に盗撮された女子高生で、電車で彼と出会い、直接声をかける勇気を見せる。「盗撮より、振り向いたときにがっかりされたことのほうがショックだった」と語る彼女は、顔にコンプレックスを抱え、スタイルが良くても後ろ姿で褒められる日常に深く傷ついていた。さらに家族のユーチューブチャンネルでは、顔以外を出演させ“客寄せ”として扱われ、自己肯定感が薄れていたのだ。
尊重される喜びと心の安堵
啓久は莉子の父に「客寄せのような扱いはやめてほしい」と伝えるが、一蹴される。しかし莉子は初めて自分が尊重されたと感じ、心に小さな安心を得る。勝手に期待され落胆される日常の方が深く傷つくこともある中で、啓久が彼女を女性として守ろうとした行動は特別な意味を持つ。現代のIT環境や婚約者の盗撮事件を通して、尊重や自己肯定感の重要性が浮き彫りになっている。
第4章を読んで感じたこと

見た目や扱われ方で傷つくって、本当に日常の中で積み重なるんだなって改めて思ったよ。盗撮の被害だけじゃなくて、期待や目線での落胆も深く響くんだね。

そうだね。無意識に周りの期待に応えなきゃって思うことが、どれだけ自己肯定感を削るか感じたよ。莉子の勇気もすごいなって。

啓久が彼女を尊重して守ろうとした瞬間、その小さな行動がどれだけ心に安心を与えるかも描かれてるのが印象的だよね。

うん。現代のIT環境やユーチューブの件も絡めて、人との関わり方や尊重の大切さを考えさせられた。
学びと成長
揺れる心と向き合う勇気
新夏の章から学んだのは、正解のない状況での葛藤や迷いも、人として自然であり、成長につながるということです。婚約者の盗撮事件という予想外の出来事に直面し、周囲の意見に揺れながらも、自分なりに向き合う姿勢を見せる新夏。その姿は、困難に直面したときに逃げずに考え抜く大切さを教えてくれました。人間関係の中で信頼や愛情がどれほど脆く揺れるかを知り、心の強さと優しさを学びました。
尊重と自覚が育む成長
啓久や莉子の章からは、他者への尊重と自分の行動への自覚の重要性を学びました。軽い衝動が大きな犯罪に繋がる現実、周囲の視線が人を変える力、そして尊重されることで自己肯定感が回復する瞬間。それぞれの立場や状況で、人間の成長は生まれることを感じました。日常でも、他人を理解し尊重する姿勢を持つこと、判断の難しさと向き合うことが、自分自身の成長につながると実感しました。
最後に
この本を読んで、信頼や尊重、罪の自覚と向き合うことの難しさと大切さを学びました。新夏や啓久、莉子の立場や感情を通して、人は誰もが迷いや葛藤を抱えながら成長していくこと、そして他者を理解し尊重することで心が救われる瞬間があることを感じます。日常の些細な行動や言葉も、誰かの自己肯定感や安心感に大きく影響することを改めて考えさせられました。
信じること、守ること、理解すること──小さな優しさに正解はありません。
その小さな優しさを、今日も大切にしてみてください。


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